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独日文芸翻訳クラブ通信 RSSフィード

2008-09-28

『世界の測量』

| 20:51

[原題] Die Vermessung der Welt

[著者名] ダニエル・ケールマン (Daniel Kehlmann)

[訳者名] 瀬川裕司

[ページ数] 336ページ

[発行年月日] 2008.05.20

[出版社] 三修社

[ISBN] 4384041071

[価格] 1995円(税込み)

[分類] 文芸一般

 


 アレクサンダー・フォン・フンボルト。大学で財政学を学び始めるが、方向転換して鉱山アカデミーへ。午前中の6時間を地中での調査に当て、午後は講義を聞き、夜は予習に励む。切り取ったカエルの脚に電気を流したら筋肉が動いたという実験を知ると、カエルではなく自分の身体を使ってその謎を解明しようとする。南米への探検旅行に出ると、どんな奥地にも行きたがり、どんなものでも見たがり、行く先々で気圧を測り、現在地の高度を知るために水の沸点を測り、現地女性の頭に巣くうシラミの数を調べる。同行者のボンプランがいかに困り果て、いかに疲れ果てようと、フンボルトの行動はとまらない。

 カール・フリードリヒ・ガウス。小学生のときに、1から100までの整数をすべて足し算せよという課題を出され、独自の方法を編み出してたった3分間で正解を導き出す。長じてから本格的に数学に取り組むと、整数の性質について考え抜き、惑星の軌道計算に没頭して、戦争が起こったことにも気づかない。周囲の人間の愚かさにいつも腹を立てているが、とりわけ息子のオイゲンに対する態度は辛辣きわまりない。

 動と静。異なるスタイルで世界を測量してきた彼らが、ドイツ自然科学者会議を機に顔を合わせる。行かずに済む方法はないものかと出発直前までぐずっていたガウスと、彼に何度も手紙を書いて会議への参加を促したフンボルト。周囲を顧みない2人の天才の軌跡が、今交わる。

 本書は、2005年に発表された"Die Vermessung der Welt"の翻訳である。ドイツのベストセラーリストに130週間以上も掲載され続け、そのうちの35週間はトップの座を占めていたという。著者は2人の実在した人物を主人公に据え、破天荒な天才が周囲を巻き込む騒動を描くが、単なるどたばた劇にとどまらない。警官とガウスとのやりとり等ちょっとした場面から時代考証の綿密さがうかがわれ、それをおもしろおかしく描写する筆力に感心させられる。会話はすべて間接話法で表現されているが、そのことが乾いた印象をもたらし、どんなにどたばたしても鬱陶しさを感じさせない。理系の知識はなくても楽しめるので、とにかく手にしてみてほしい。


 

(春眠)

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