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独日文芸翻訳クラブ通信 RSSフィード

2007-01-07

『みえない雲』

| 16:18

[書名] みえない雲 

[原題] Die Wolke 

[著者名] グードルン・パウゼヴァング(Gudrun Pausewang) 

[訳者名] 高田 ゆみ子 

[ページ数] 281ページ 

[発行年月日] 2006.11.01 

[出版社] 小学館 

[ISBN] 4-09-408131-3 

[価格] 600円(税込) 

[分類] ヤングアダルト 

 


 

 チェルノブイリ原発事故の数年後のドイツ。人々はすでにその忌まわしい記憶を頭から消し去ろうとしていた。そんなある日、14歳のヤンナ-ベルタがいつものように授業を受けていると、突如緊急サイレンが鳴り響いた。町から80kmほど離れた原発で放射能漏れ事故が起きたらしいという。両親も祖父母もたまたま不在で、家には7歳の弟ウリだけが先に帰宅して待っているはずだ。ヤンナ-ベルタは大パニックの町を抜け、なんとか自宅へ帰りつくが、幼い弟と2人きり、両親と連絡もとれずに途方に暮れる。地下室で待機せよというアナウンス、ただちに他の町へ避難せよというラジオの放送。何を信じればいい? 混乱の中、ヤンナ-ベルタはついに、2人で自転車で遠くの主要駅まで行くことを決心する。その決意が悲劇をもたらすことも知らぬまま……。 

 この作品が「近未来小説」として発表されたのはチェルノブイリ事故翌年の1987年で、日本でもすぐに『見えない雲』のタイトルで翻訳され、話題を呼んだ。そして2006年、映画化をきっかけに文庫となり、再度注目を集めることとなった。チェルノブイリよりはるかに規模の大きな事故が、もしもドイツで起きたなら、全ヨーロッパ、そして全世界を巻き込んでの未曾有の被害がもたらされるだろう。原発はそれほどの危険をはらんでいる。しかし日ごろわたしたちは、原発のもつ脅威をそれほど意識することなく電気を使っている。このまま無関心でいていいのか? この本はそういう危機感を突きつけてくる。 

 グードルン・パウゼヴァング(1928~)は6人きょうだいの長女としてボヘミア地方(現在のチェコ)に生まれた。第2次世界大戦で父を亡くし、戦後は旧西ドイツに移住して大学進学し、卒業後教職についた。ドイツ国内だけでなく南米で長年にわたりドイツ語学校に勤務し、そのかたわら執筆活動に従事した。核兵器の脅威を扱った青少年向けの SF『最後の子どもたち』(1983)で注目を浴びたあと、1986年のチェルノブイリ事故に衝撃を受けて本書を執筆。本書によってドイツ児童文学賞やドイツ SF 賞、優れた SF 作品に贈られるクルト・ラスヴィッツ賞を受賞した。1999年にはドイツ連邦功労十字章を授与され、その後も現在に至るまで旺盛な執筆活動を続けている。 

▽映画「みえない雲」公式サイト(ただいま事情によりリンクを外しています) 

 

(みじこ)
 

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2006-04-17

『ロバートは歴史の天使』

| 16:17

[書名] ロバートは歴史の天使

[原題] Wo warst du, Robert?

[著者名] ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー(Hans Magnus Enzensberger)

[訳者名] 丘沢静也

[ページ数] 270ページ

[発行年月日] 2001.04.10

[出版社] 晶文社

[ISBN] 4-7949-6482-X

[価格] 2200円 (税別)

[分類] 児童書

 


 ロバートは14歳。目をこするくせがあり、学校の先生には「よくぼーっとしているね」と言われる。実はロバートは見たものを写真のように丸ごと覚えていられる記憶力の持ち主。しかも不思議な映像のようなものが自分だけに見えるのだ。ある夏の午後、テレビを見ながら例のごとくぼーっとして目をこすっていると、突然厳寒の風の中に放り出されてしまった。何とそこは1956年のロシア。今テレビで見ていた時代に飛び込んでいたのだ。これからどうなる? ロバートはもといた世界に帰れるのだろうか?

 ロバートはロシアを皮切りに、400年にわたってヨーロッパ各地で7つの時代を駆け巡ることになる。飛び込む場所は宮廷であったり、画家の工房であったりして、さまざまな境遇の人々に出会う。ひとりぼっちで危険にさらされても、ロバートはおびえもくじけもしない。持ち前の好奇心を発揮して前向きに行動し、知恵を働かせて危機を切り抜け、旅を先へ先へと進めて行く。読者も次は一体どこでいつの時代なのか、はらはら、わくわくしながらどんどん読み進めていける。270ページがあっという間の冒険物語だ。それぞれの時代の人々の様子や風俗が、ロバートの目線で生き生きと描写され、歴史の教科書では味わえない、鮮やかな印象を残してくれる。訳書は日本の文芸翻訳書としては珍しく横組で、挿し絵はないものの、会話に出てくるロシア語などの外国語や、ロバートが目にするポスターなどが文中に配置され、イメージを広げてくれる。

  著者ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー(Hans Magnus Enzensberger 1929年、アルゴイのカウフボイレン生まれ)は詩人、哲学者、出版人、評論家とさまざまな顔を持つ文筆家。60年代から70年代にかけての学生運動や社会運動に評論活動や出版活動を通して大きな影響を与えた。1985年のハインリヒ・ベル賞を始めとして、さまざまな文学・出版賞を受賞した現代ドイツを代表する知識人である。現在でも特にメディア論など、活発な政治、社会的な発言で注目され続けている。そのかたわら、本書のようなティーンエイジャー向けの作品も発表して、若い世代の知的好奇心を刺激している。邦訳では『数の悪魔』『エスターハージー王子の冒険』などがおなじみだ。本書の主人公、ロバートは『数の悪魔』の主人公でもあり、『数の悪魔』をすでに読んでいる読者は、本書でロバートが成長した姿に会うことができる。

     

(Dotta)

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2005-11-06

『川の上で』

| 16:25

[書名] 川の上で

[原題] Auf dem Strom

[著者名] へルマン・シュルツ(Hermann Schulz)

[訳者名] 渡辺広佐

[ページ数] 150ページ

[発行年月日] 2001.04.30

[出版社] 徳間書店

[ISBN] 4-19-861345-1

[価格] 1200円(税抜)

[分類] ヤングアダルト

 



 1930年代の東アフリカ、イギリス統治下の現在のタンザニア。ドイツ人宣教師、フリートリヒ・ガンゼは小さな村に派遣されていた。妻と娘が熱病にかかり、妻は亡くなり、娘のゲルトルートも瀕死の状態に陥る。娘を病院に連れて行って助けるには、5日間かけて小さな舟で川を下らなくてはならない。危険に満ちた舟旅の途上、フリートリヒは娘と共に川沿いの村々に宿泊する。言葉も通じず、1夜の宿の代償も持たないこの見知らぬ外国人の親子を、村人たちは淡々と受け入れ、娘に治療を施し、必要な援助を与え、次の村へと送り出す。アフリカの信仰や文化を否定する立場にあるフリートリヒは、村人たちが娘に施す「治療」や「薬」を拒もうとする。しかし、疲労困憊してなすすべもなく、自分も娘も村人に託さざるを得ない。村人たちは不思議な方法で娘の病と彼の疲れを癒す。村から村へと川を下るうちに、娘の病状は快復に向かい、フリートリヒの心にも変化があらわれる。

 フリートリヒは舟の上では娘に自分の少年時代を語るともなく語って聞かせ、自分自身の出自と向き合うと共に、娘との家族としての絆を強めて行く。父の物語が熱病におかされた娘に親子の愛を伝え、生きる力を与える。流れる川のリズムにのせて、異文化との出会いによってフリートリヒが変わっていく姿と親子の絆が深まる様子が静かな筆致で描かれた美しい作品である。1998年、へルマン・ケステン賞受賞。


 著者へルマン・シュルツ(Hermann Schulz 1938年〜)は本書の舞台となった現在のタンザニアの生まれで、父親はフリートリヒと同じく宣教師だった。ドイツに帰国後はルール地方で育ち、さまざまな職業を経験し各国を旅した後、1967年から2001年まで出版社を経営し、主にアフリカや南アメリカ地域の文学や専門書、ノンフィクションなどをドイツに紹介した。自らも文筆家として活躍し、特に近年は主にアフリカ・タンザニアを題材にしたヤングアダルトから子ども向けの作品を発表している。


 

(Dotta)

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2005-05-28

『アナ=ラウラのタンゴ―パパの謎を追って』

| 16:04

[書名] アナ=ラウラのタンゴ――パパの謎を追って

[原題] Ana-Lauras Tango

[著者名] ヨアヒム・フリードリヒ(Joachim Friedrich)

[訳者名] 平野卿子

[ページ数] 230ページ

[発行年月日] 2004.08

[出版社] ポプラ社

[ISBN] 4-591-08195-8

[価格] 1300円(税別)

[分類] ヤングアダルト

 



 主人公のアナ=ラウラは思春期を迎えた女の子。明日から夏休みというある日、彼女はタクシーに乗った父親そっくりの男性を見てしまう。「今の人、パパ? パパは2年前に死んだはずなのに!」アナは動揺する。母親にはすでに新しい恋人ペーターがいた。再婚に反対ではなかったが、あの男性が頭から離れない。ママに相談しても信じてもらえなかったアナは、ペーターの息子で、自分より1歳年上のオリバーに助けてもらい、パパの死の真相を探り始める。パパは戦争末期に生まれたのだが、そこに何か秘密があるようだ。ママもペーターも協力してくれるようになったので、一緒になって謎に迫っていく。次第に、ドイツの重い「過去」が浮き彫りにされてくる。果たして、パパは生きているのか?

 ミステリ風に描かれたこの作品はテンポよく進み、読み始めるととまらなくなる。謎解きの楽しさを味わいながらも、読後は戦争の残した傷跡について深く考えさせられる内容になっている。父親の謎を探す重要な手がかりとして、書名にもなっているアルゼンチン・タンゴが登場する。作者は巻末のメッセージで「タンゴが表す憂鬱と希望、情熱がいりまじったさまざまな感情を主人公に味わわせたかった」と書いている。死んだはずのパパが生きていたらママとペーターはどうなるのか、パパの謎を追究してもよいのだろうか、タンゴのように揺れるアナの心が巧みに表現されている。


 著者ヨアヒム・フリードリヒ(1953-)はルール地方のオーバーハウゼン生まれ。子どもの頃は、大のミステリファンだった母親の影響を強く受け、母をまねて図書館から児童向けの推理小説を借りては読んでいたという。彼が作家になるまでの経歴は少々ユニーク。実業学校を出て会社員になったあと、大学に入り直して経済学を学び、航空会社に就職する。その仕事も辞め、大学教授兼経営コンサルタントになったが、あるときミヒャエル・エンデの『モモ』に出会い、子ども時代を思い出して作家を目指すようになった。日本で紹介されている作品は本書のほかに、『4と1/2探偵局』シリーズの『宝の地図のひみつ―4と1/2探偵局(1)』から『探偵犬、がんばる! 4と1/2探偵局(5)』までの5冊。なお、このシリーズは1999年にエーミール児童ミステリ文学賞を受賞している。

(根津)


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2005-04-10

『パーフェクトコピー』

| 16:15

[書名] パーフェクトコピー

[原題] Perfect Copy

[著者名] アンドレアス・エシュバッハ(Andreas Eschbach)

[訳者名] 山崎 恒裕

[ページ数] 334ページ

[発行年月日] 2004.11

[出版社] ポプラ社

[ISBN] 4-591-08350-0

[価格] 1500円(税別)

[分類] ヤングアダルト

 



 15歳のヴォルフガングは、わが子を一流チェリストにという親の期待にこたえるべく、日々練習に励んでいる。しかしヴォルフガング本人はチェロを心からは好きになれず、才能にも自信がない。同学年の女の子への淡い恋心もチェロのせいでおあずけとなり、いささか悶々とした日々を送っている。そんなある日、世界はクローン人間のニュースに騒然となった。キューバ人医師とドイツ人医師が手を結び、16年も前にクローン人間を誕生させていたというのだ。医師をしているヴォルフガングの父は遺伝子工学の専門家でもあり、当時そのキューバ人医師と接触があったことから「その息子がクローン人間なのでは?」と世間に疑いをかけられてしまう。もしかしてぼくはクローン? そんな疑念にとりつかれたヴォルフガングは、意外な事実を知ることになる。

「自分とは何か」というテーマにクローン問題をからめた、肩の凝らない娯楽作品に仕上がっている。クローン技術に関する専門知識が出てくるが、15歳のヴォルフガングといっしょに学んでいく形式なのでわかりやすい。親子の葛藤あり、恋の悩みあり、アクションあり、テンポのよい展開にひきこまれて一気に読める。対象年齢は12歳から。巻末の著者メッセージ「作家への道」には、著者が「作家になりたい」という子供のころからの夢をかなえた経緯が書かれている。ヴォルフガングのように自分の才能について悩んでいる読者は、このメッセージに励まされるのではないだろうか。


 アンドレアス・エシュバッハ(1959~)はウルム出身の SF 作家。シュトゥットガルト大学で航空宇宙工学を専攻後、ソフトウェア会社を設立したという、作家としては異色の経歴の持ち主。しかし執筆活動に興味を持った時期は早く、12歳のとき「ペリー・ローダン」シリーズに影響されて小説を書き始め、1995年に "Die Haarteppichknuepfer" で作家デビューを果たした。代表作『イエスのビデオ』(2003)は優れた SF 作品に贈られるクルト・ラスヴィッツ賞を受賞。


 

(みじこ)

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