Hatena::Grouplitrans

独日文芸翻訳クラブ通信 RSSフィード

2006-04-01

『象は世界最大の昆虫である』

| 16:24

[書名] 象は世界最大の昆虫である ガレッティ先生失言録

[原題] Das groesste Insekt ist der Elefant

   ――Professor Gallettis saemtliche Kathederblueten

[著者名] ヨーハン・G・A・ガレッティ(Johann G.A.Galletti)

[訳者名] 池内紀

[ページ数] 218ページ

[発行年月日] 2005.06.20

[出版社] 白水Uブックス

[ISBN] 4-560-07379-1

[価格] 900円(税別)

[分類] ユーモア

 


 1800年ごろ、ドイツ北東部の町ゴータのギムナジウム(中等高等学校)。ドイツ史を解説する先生の声が教室内に響く。それに聞き入る生徒たち。と、彼らの耳にこんな言葉が飛び込んできた。「1306年に射殺された代官ゲスラーは、その2年後、スイスから追放された」――この教授からは、物理学を論じさせれば「水は沸騰すると気体になる。凍ると立体になる」、博物学を語らせれば「象は世界最大の昆虫である」などの珍説がひょいっとこぼれる。彼こそは、我らが名物教授ガレッティ先生だ。

 ヨーハン・G・A・ガレッティ(1750-1828)は、ゲッティンゲン大学で学んだ後、ゴータ・ギムナジウムで約40年にわたって教鞭をとる。そのかたわら発表した歴史や地理に関する著作は膨大で、わかっているだけでも40冊を超える。中には没後30年に復刻されたものもあり、著作の一部については時を経てもなお読み継がれていたことをうかがわせる。また、ゴータの宮中顧問官に任命されるなど、その経歴は華々しい。

 しかし、今日その著作が読まれることはなく、学者として高く評価されることもない。彼の名は、もはや「失言の父」として知られるのみである。その言い損ないや記憶違いを集めたものは、早くも亡くなった直後に手刷り本としてあらわれている。その後、1868年にベルリンの書店から出版された印刷本が好評を博し、今日に至るまでいくつものバリエーションが刊行されるもとになった。また、1990年代にゴータの町にその名を冠した通りが出現したことからも、ガレッティ先生とその失言が時代を超えて愛されていることがわかる。

 本書には705の失言が淡々と並ぶだけで、授業内容や生徒の様子などには触れられていない。このさりげなさが誘うのはじんわりとしたおかしみで、決して冷笑や嘲笑ではない。先生が思わず発した失言をおもしろがり、級友との話の種にした子供時代をふわりと思い出させてくれる。抑制のきいた笑いが好きな方にお勧めしたい。

 

(春眠)

 ☆『象は世界最大の昆虫である』をアマゾンでチェックする

2005-08-28

『ドイツ人のバカ笑い――ジョークでたどる現代史』

| 16:07

[書名] ドイツ人のバカ笑い――ジョークでたどる現代史

[原題] Ganz Deutschland lacht!

[著者名] ディーター・トーマ(Dieter Thoma)、ミヒャエル・レンツ(Michael Lentz)、クリス・ハウランド(Chris Howland)

[訳者名] 西川賢一

[ページ数] 205ページ

[発行年月日] 2004.06

[出版社] 集英社

[ISBN] 4-08-720247-X

[価格] 700円(税別)

[分類] ユーモア


 



 本書では、1945年から1999年までにドイツで語られたジョークが年代別に分けられ、紹介されている。ジョークのネタは多彩で、政治家や有名人をからかったり東ドイツでの経済的困窮を皮肉ったりするものから、シモネタまである。ジョークに取り上げられる人物も、バラエティーに富んでいる。ホーネッカー(東独・社会主義統一党書記長)やアデナウアー(西独・初代首相)、ローマ教皇やブロンド女(ドイツのジョークに出てくる定番キャラクター)など、実在の政治家から架空のキャラクター、さらには動物も登場する。

 歴史や文化の異なる他国のジョークは理解しにくいものだが、この本はドイツのことをよく知らない人でも面白く読める構成になっている。まず、各章の初めに略年表が付いているので、だいたいのドイツ史が把握できる。また各ジョークを紹介する前に、ドイツ人は当時どんな暮らしをしていたか、何が流行し何に不満を抱いていたか、など世相についての説明があり、背景も分かりやすい。


「ドイツ人はまじめで、くだらないジョークなど言わない」と思っている人は、この本を読めば印象がガラリと変わるだろう。とはいえ、ドイツ人のキッチリとした性格は、ジョークにも反映されている。政治家など徹底的にコケにされていて、かえって気の毒にもなる。また気楽に笑えるジョークばかりでもない。終戦直後に出回った、ユダヤ人をネタにしたジョークなどは笑うに笑えず、胸にずしりとくる。辛辣なジョークに「どきっ」としたり、あほらしいジョークに「しらーっ」としたりしながら、ステレオタイプではないドイツ人の素顔を知ることができる。


 ジョークのネタを収集・選定し記事を書いたのは、ドイツ人ジャーナリストのディーター・トーマ、脚本家のミヒャエル・レンツと、イギリス人エンタテイナーのクリス・ハウランドの3人である。イギリス人が編者に加わることにより、ドイツ人の視点に偏らないバランスのとれたジョーク集になっている。本書のもとになった原書は、さらに分量が多く、ジョークの他に解説も収められているが、訳書では割愛されている。かわりに略年表やユーモラスな挿絵が入れられ、日本の読者に親しみやすい本に仕上がっている。訳も工夫されていて、ジョークを語る市井の人たちの雰囲気がよく伝わってくる。


 

(2005/08/28 根津)

 ☆『ドイツ人のバカ笑い――ジョークでたどる現代史』をアマゾンでチェックする