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独日文芸翻訳クラブ通信 RSSフィード

2005-09-22

『あるミルク売りの日記』

| 16:05

[書名] あるミルク売りの日記

[原題] Milchfrau in Ottakring

[著者名] アーリャ・ラフマーノヴァ(Alja Rachmanowa)

[訳者名] 宮内俊至

[ページ数] 294ページ

[発行年月日] 2001.11.10

[出版社] 北樹出版

[ISBN] 4-89384-836-4

[価格] 2,300円(税別)

[分類] 伝記

 



 1925年12月17日。ロシア人女性アーリャは、夫オトマーと幼い息子とともにウィーンに到着した。国外追放処分を受けたため、夫の故国オーストリアにやってきたのだ。しかし、出迎える人も住む場所の当てもなく、所持金はごくわずか。アーリャは文才を生かした仕事をするつもりで新聞社に原稿を持ち込むが、採用されない。オトマーはロシアで得た資格が認められないことがわかり、いろいろな仕事をしてみたが稼ぎにならず、結局はオーストリアの大学で一から学び直すことにする。本書は、八方ふさがりの中、借金して手に入れた食料品店を切り盛りして一家を支えたアーリャの1年半をつづったものである。

 店は何とか開いたものの、アーリャには商売の経験がない。毎日が手探り状態の彼女を取り巻くのは、規則至上主義の大家、支払いをごまかそうとする客、しょっちゅう新しい儲け話を思いついては失敗する青年2人組といった人々だ。わがままで厚かましいが、懸命に日々を過ごす彼らのエピソードは、庶民の悲しさやたくましさを魅力的に描き出している。アーリャがこれら一癖も二癖もある人々の信頼をどのように得ていくか、それもまた読みどころの1つだ。

 著者アーリャ・ラフマーノヴァ(1898-1991)は裕福な家庭に育ったが、ロシア革命のため、2度にわたる父の逮捕投獄、財産没収の憂き目に遭う。それでも母の後押しで大学教育を受け、同じように学者の道を志していた男性と結婚し、翌年には息子に恵まれた。ところが、その3年後に国外追放処分を受けてしまう。理由は明らかにされなかったが、夫が第1次世界大戦時の敵国の出身で、戦争捕虜でもあったためと思われる。こんな仕打ちを受けながらも母国を愛し、そして国に残る両親を気遣うアーリャの姿は読む者の胸を締めつける。

 原作の"Milchfrau in Ottakring"は3部に分けられた日記の3番目に当たるもので、"Studenten, Liebe, Tscheka und Tod"、"Ehen im roten Sturm"に続いて1933年に出版されると国内外で好評を博し、21カ国語に翻訳された。しかし、その後ナチスから、そして戦後はソヴィエト占領軍から発禁処分を受け、幻の本となっていた。本書は、処分が取り下げられて、1997年に発行された新版を底本としている。

 

(春眠)

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2005-05-07

『秋のミルク』

| 16:22

[書名] 秋のミルク

[原題] Herbstmilch

[著者名] アンナ・ヴィムシュナイダー(Anna Wimschneider)

[訳者名] 田村 都志夫、椎名 知子

[ページ数] 198ページ

[発行年月日] 2004.11

[出版社] 五月書房

[ISBN] 4-7727-0418-3

[価格] 1800円(税別)

[分類] 伝記

 



 1919年にドイツ・南バイエルンの貧しい農家で生まれたアンナは幼い頃から苦労の連続だった。8歳のときに母親が亡くなり、9人兄弟の長女だったアンナはすべての家事を押し付けられる。朝は5時に起き、乳しぼり、牧草運び、食事の準備、小さな弟妹たちの世話を済ませてから4キロ歩いて学校に行き、戻るとまた料理に洗濯、縫い物や継ぎ当てを夜遅くまでやった。そんなアンナも1939年に農家の跡取りであるアルベルトと結婚することになった。ようやく母親代わりの辛い仕事から解放されると思いきや、結婚後はさらに過酷な状況に追い込まれる。嫁ぎ先にはひどく意地悪な姑、歩行の不自由な伯父が2人と伯母がいた。しかも夫は結婚式の11日後ナチスに召集を受け、結局アンナひとりで農作業、家事、老人4人の世話をするはめになり、試練の日々が果てしなく続く。

 本書はアンナ・ヴィムシュナイダー(1919-1993)が自分の人生を娘たちに伝えるためノートに記録をつけたものがもとになってできた。素朴な言葉で、ありのままの出来事が淡々と綴られているので、彼女の体験がリアルに伝わってくる。現代の生活からは考えられないような苦労話が多いのだが、アンナの持ち前の明るさが行間ににじみ出ているので湿っぽい作品にはなっていない。前向きで懸命なアンナの生き方は読者にたくさんの勇気を与えてくれるだろう。


 農婦の綴ったこの半生記はドイツで1984年に初版が出たのち、あっという間に話題となり200万部のベストセラーとなった。ヨーゼフ・フィルスマイヤー監督により映画化もされ、日本でも『秋のミルク』として公開された。本書を紹介した『週刊朝日』(2005.2.4増大号)の記事によると、ベストセラーを出したあとも、アンナは最後まで農婦としての人生を変えなかったという。なお書名にもなっている「秋のミルク」とは古くなって凝固したミルクのこと。


 

(根津)

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